有機栽培とは

 農薬を使っていても、有機肥料を施しているから「有機栽培」だ、と間違った認識を持つ農家や関係者は、まだまだ、たくさんいます。しかし、有機農法と表記するには、「基本的に化学合成された農薬や肥料を使わず、有機JAS認証機関による認定を取得した場合」だけです。
 「低農薬有機栽培」、「減農薬・有機農法」などと表記してある場合は、法律施行以前の古い認識のまま「有機肥料=有機栽培」なのです。

有機栽培という表記について

 2001年4月から日本農林規格(JAS)により、「有機栽培」や「有機農法」と表示をするには、登録認定機関で認証を受けなければならないと定められました。違反した場合には罰則があります。

 私は農業関係の職業ではありませんが、法律で規制されたことは、その当時に一般誌で目にしましたし、その後、「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」の度重なる改定、2006年12月に「有機農業の推進に関する法律」が施行されたこともニュースになったと記憶しています。
 テレビ、新聞でも報道されているのですから、農家の方が知らないというのでは困ります。また、行政もホームページを見てまで指導しないようなのですが、行政は周知させてほしいと思います。

 ただし、現実的には、あまりにも知らない農家が多く、農家が有機栽培だと言ったことを、そのまま記事にする新聞も多くあります。周知されるまでには、相当な年数がかかることでしょう。有機栽培のイチゴ観光農園を探そうとしても、ほとんどが勘違いされている農園ばかりが検索されるという状況です。

 いちごは病気に弱いので、1年を通じて農薬をまったく使わない栽培はとても難しいのです。しかし、普通はイチゴ狩りの期間は、なるべく農薬を使わずに、安心して食べられるように配慮している農園が多いです。苦労しながらも本当に有機栽培をされている農家もいらっしゃいます。そんな農家の方にとっては、「有機肥料だから有機栽培だ」という農家は迷惑そのものでしょう。

 一定期間、たとえば、収穫期間だけ農薬を使っていない場合に、無農薬栽培としている農家の方もいますが、実際には、残留農薬の可能性もあります。ですから、無責任な表示が規制されているのです。
 「無農薬」「無化学肥料」表示は、消費者が一切の残留農薬等を含まないとの間違ったイメージを抱きやすく、優良誤認を招くため、表示禁止事項です。
 「減農薬」「減化学肥料」表示は、削減の比較基準、割合及び対象(残留農薬なのか使用回数なのか)が不明確であり、消費者にとって曖昧で分かりにくい表示なので、表示禁止事項です。
(平成15年5月改正 特別栽培農産物に係る表示ガイドラインQ&Aより)
 「有機肥料だから有機農産物だ」と認識されてきた農家の方は、今後は、有機という言葉は、肥料についての説明にだけ使うようにしましょう。
認証を受けた有機農産物で使用できる表示
A「有機農産物」
B「有機栽培農産物」
C「有機農産物○○」又は「○○(有機農産物)」
D「有機栽培農産物○○」又は「○○(有機栽培農産物)」
E「有機栽培○○」又は「○○(有機栽培)」
F「有機○○」又は「○○(有機)」
G「オーガニック○○」又は「○○(オーガニック)」
(注)「○○」には、当該農産物の一般的な名称を記載すること。
(有機農産物の日本農林規格 第5条より)
紛らわしい表示の禁止
 有機JASマークが付いていない農産物に有機農産物と誤認されるような紛らわしい表示を付することはできません。一方、一般的な名称のほか、「肥料は有機質肥料を使用しました」と言うように、栽培方法の過程を強調表示する場合については、紛らわしい表示に該当しないことから可能です。

(1) 有機JASマークが付いていない場合、表示してはならない例

有機、有機農法、完全有機農法、完全有機、海外有機、準有機、有機率○%、有機産直、有機○○(商標登録)、有機移行栽培、雨よけ有機栽培、有機土栽培、オーガ ニック、organic、有機の味、「外国(国名)有機認証品です。」等の説明

(2) 有機JASマークが付いていなくても表示してよい例

有機質肥料使用、有機肥料を使用して栽培したトマト

「有機農産物及び有機加工食品のJAS規格のQ&A 平成19年1月 農林水産省消費・安全局表示・規格課」(問146)より」

 こんな表記がされていたら、有機栽培ではなく、有機肥料を使っているだけと思ったほうがいい例。

「低農薬有機栽培」、「減農薬・有機栽培」
「減農薬、有機栽培にこだわり、お客様が安心して食べられる」
「化学肥料を一切使用しない、完全有機栽培」
「有機栽培で、また、お客様に安心して召し上がっていただける低農薬栽培です」
「カルシウムイオン・アミノ酸などを使用して90%以上の有機栽培です」
「化学肥料をやめ、米ぬかや骨粉などを肥料とする有機栽培に転換」

水耕栽培、ロックウール栽培
 イチゴ観光農園では、水耕栽培やロックウール栽培がよく見られますが、土壌に由来しない栽培方法なので、有機栽培という表示はできません。
(問)水耕栽培、ロックウール栽培、ポット栽培で栽培した農産物は規格の適用の対象となりますか。

(答)有機農産物の日本農林規格は、土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させること を生産の原則として定められていることから、水耕栽培及びロックウール栽培の農産物は規格に適合しません。したがって、有機JASマークを付すことはできませんし、指定農林物資に該当するため有機の表示もできません。ただし、ポット栽培には、認定を受けた自らのほ場において土作りが行われた土壌を活用し、その認定を受けたほ場で栽培するのであれば適用の対象となります。

「有機農産物及び有機加工食品のJAS規格のQ&A 平成19年1月 農林水産省消費・安全局表示・規格課」(問49)より」
有機農産物の日本農林規格

農薬を使わないイチゴ狩り農園

山梨県甲府市
出井農園
 無農薬、無化学肥料で栽培し、おいしさ追及のために収穫量より食味に重点を置いているそうです。
「土壌消毒はしていません。除草剤を使いません。肥料は有機100%しか使いません。農薬は育苗期を含め全期間一切使いません(HPより)」

鳥取県北栄町
浜根農園
 育苗から収穫まで無農薬で栽培。ただし、苗が不足しやむを得ず苗を購入した場合は除くが、苗が当園にきてからは無農薬で栽培。
「食べる人にも栽培する人にもやさしくありたい、と出来る限り無農薬、そして自家製有機質肥料を使って育てています」とのことです。
いちご狩りはしていないけど。。。
神奈川県相模原市 すどう農園:有機栽培のイチゴを販売しています。

不適切な「有機栽培」の表示例

 栽培農家だけでなく、JAや市町村のホームページでも不適切な使用例がありました。

■ 群馬県内のJA
 当JA管内のイチゴ観光農園組合の紹介で、「高設ベンチ栽培と有機栽培を取り入れたいちご」と記載がありましたが、農園のホームページには有機栽培という文字はないため、問い合わせました。
 回答があり、「以前に使っていたパンフレットの内容をホームページに記載したが、その後、パンフレットは更新され、有機栽培の文字はなくなったが、ホームページは更新されなかった」とのことで、単なるミスのようです。
 ただ、JAのホームページは、引用されることも多く、個人ホームページを中心に「有機栽培」という表記がみられ、東京新聞2009/1/22の記事にも「有機栽培」と記載されていました。

■ 千葉県内のイチゴ狩り観光農園
 ホームページの真中に「100%有機栽培 お客様に安心していちごを食べていただけるようにエコファーマーの認定を受けました」と大きなロゴがありましたが、「化学農薬を減らしより安全ないちごをお届けできました」とも書いてあり、有機栽培ではないことが分かります。
 「有機肥料を使っているから、有機栽培だ」という農家はいまだに多いのですが、気になったのはこの農家が、千葉県のエコファーマーを平成17年に取得しており、さらに平成20年には千葉県農業士資格も取得しているのに、有機栽培を知らなかったということです。熱心に勉強しているはずの農家がなぜ有機栽培を知らないのでしょうか、疑問でした。

 ブログに「100%有機栽培とホームページに書いてありますが、化学農薬を使っていないという意味でしょうか?」と問い合わせたところ、回答は、「有機栽培とは、科学合成肥料を使わず稲わら、籾殻、などを堆肥化して使い栽培する方法です。又、当園は科学農薬をなるべく使わず天敵(良い虫)を使い外敵(悪い虫)を減らすことをしています。有機栽培方法と農薬とは違う意味です」。やはり、よくある「有機肥料=有機栽培」という思い違いのようでした。

 次に「100%有機栽培」という言葉が気になったので、「100%有機栽培ということは、化学肥料は生育期間のみならず年間を通じて、全く使わないということでよろしいのでしょうか?」と質問したところ、明確な答えがなく何回かやりとりをした後に、「不愉快に思っておられるのなら、申しわけありません」とかなんとか回答があったのですが、その後、関連するコメントが全てがなくなっていました。削除されたのかもしれないと思って「コメントがなくなっていますが、なぜでしょうか」と問いかけたところ、回答はあったものの、質問とは関係のない内容。この農園の方は、まともに答える気は全くないのだろうと思って、質問はやめました。

 しばらくしてから、ホームページを見たら、「100%有機栽培」というロゴは、削除されていましたので、間違いに気づいたようです。(2009年1月)

■ 山梨県内のいちご園
 「6種類の無農薬いちご狩りと、9種類の無農薬いちご」、「食の安全と安心に拘り、無農薬のいちご狩り・いちご」などと、ホームページで「無農薬」を強調していました。ところが、別のページには、「イチゴの花が咲く前(10月中旬頃)まで徹底的に害虫と病気の防除を図り、それ以降無農薬栽培としたい。そうすることにより、イチゴの果実の表面に付着する農薬は、食べなくてすむ」とあり、生産過程の前半では農薬を使用していることが書かれていました。そこで、問い合わせると、やはり農薬を使用しており、一般的には無農薬と表示できない栽培方法であることが分かりました。農園には指摘しましたが、無農薬という言葉を早急に削除することはしないとの返答がありました。[2006年11月]

2006/12/18の農園のブログに「山梨県中北農務事務所と農林水産省関東農政局が無農薬表示について指導に来た」と書かれていました。

2007/1/9の農園のブログに「山梨県農政部果樹食品流通課課長補佐、食品流通安全担当主査、山梨県中北農務事務所農業農村支援課生産振興担当主査、副主査が、当館の無農薬の表示について、ご指導にこられました」と書かれていました。しかし、無農薬という表示はホームページに書かれたままとなっており、山梨県の指導にも従うつもりはないようです。

2008年 残留農薬の試験を行った結果、「残留農薬ゼロ」という表現に変更されていました。

 この農園は、やむを得ない場合に農薬を使ったとしても、残留農薬の試験を行い、安全なイチゴを生産しようとする優良農園だと思います。

■ 群馬県内のいちご園
 ホームページに「当農園は有機肥料を使い、農薬の使用回数も大幅に減らした有機農法を心掛けています」と書いてあったので、問い合わせたところ、園主はJAS法のことを知りませんでした。有機肥料を使っているので、「有機栽培」と書いたようです。すぐに園主は有機という言葉を削除されました。(2004年2月)

●不適切な表現
茨城県 認定農業者が経営するイチゴ観光農園
「関東地方で、一番入園料が、安いいちご園です」と表記していましたが、他県にはもっと安いいちご園が複数ありましたので、お知らせしたところ、こっそりと削除されていました。毎年、ホームページを更新する時に、調べなかったのでしょうね、きっと。
※私は、農薬を使っているから危険だというのではなく、ルールを守って表示することが生産者、消費者の両方にとって有益であると考えています。

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